母の鎖 - しりはた
FC2ブログ

スポンサーサイト

スポンサー広告
-- /-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

母の鎖

小説
12 /09 2016
短編を更新。
間接的な表現ですが、虐待描写がありますのでご注意ください。
F/? (平手)、F/f(回想)
---

母の鎖


私の膝の上に、我が子のお尻が突き出されてお仕置きを待っている。

この前までは片手で覆えるくらいの可愛いお尻だったはず。
いつのまにか肉が付いて、両手でも手に余るくらいに成長している。
真っ白ですべすべのお尻。膝にはずっしりとそのお尻の重みがかかっている。

「こんな大きくなって、お仕置きなんて恥ずかしいよ」

そういいながら腕をふりあげる。

右、左とテンポよく叩いていく。パンパンと居間に音が響く。
最初は我慢していた子供が「痛い、痛い」と泣き声をあげ……途端に、私の心にさざ波が広がる。

*

「…痛いふりして泣いても無駄だからね…」

*

頭によみがえるは断片的な記憶。
母の躾は苛烈だった。
もし私がいまの我が子と同じことをしたら、どんなお仕置きが待っていただろう?

私の左ふとももには、黒いシミがある。
事情を知らない人から見たらほくろにしか見えないそれ。
20年前、私のささいな振る舞いに逆上した母に、鉛筆の先を突き刺された痕である。
顔をゆがめその痛みに耐える私に、母はそう吐き捨てたのだ。

そしてはじまる、お説教。
母の前に立たされた私。突き刺されたふとももの傷には血がにじんでいる。

そんな私の状態にはおかまいなく母は説教を続ける。
とめどない説教。その合間、何度も頬に平手が飛ぶ。
倒れれば髪をつかまれ無造作に起こされて、目つきが悪いとまた張り倒される。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

必死に吐き出す謝罪の言葉もむなしく、頬の肉を力任せに捻りあげられる。

「そんな目つきで謝って許してもらえるとでも思ってるの?」
「ごめんで済むなら警察はいりません」

泣き晴らして顔をぐしゃぐしゃにして、それでも許してもらえなくて……。
足が震え、立つのもやっとなくらい疲弊した頃、ついに最終宣告が下される。

「脱ぎなさい」

*

お仕置きの翌日、私はいつもマスクをして学校に向かった。
幾度となくひねりあげられた頬が青あざになっていたからだ。

そして……ランドセルを背負う背中。ズボンの下のお尻。トレーナーの下のおなか。
そしてその下も。服で隠れる場所は、すべて。

先生もクラスメイトも、何も知らなかった。

*

子供が生まれる前から、お仕置きはお尻と決めていた。
これは私の意地だ。

私は母親の轍を絶対に踏まない。
私は絶対に子供相手に理性を失うなんてことはしない。
獣のように理性を失うことなく、しかも子供を理性のうちに育て上げることができたら。

なすすべなく差し出されたお尻は、私のさじ加減でいくらでも打つことができる。
お尻を打つ数を、打つ力を、理性でコントロールできるのは、私ただ一人。
だからこそ、私はお仕置きの執行から逃げることはできないのだ。

子供のお尻にはすでに私の手の平の痕が重なり、ところどころ赤くなっている。
我が子のお尻には痺れが重なり、熱い痛みを感じているだろう。

打音、泣き声、荒い息使い。

部屋が痛々しい音で満たされる感覚。

ふっと過去に記憶が飛び、

「許して、許して、ごめんなさい、ごめんなさい……」

子供がそう訴えた瞬間。

私の身体は言うことを聞かなくなっていた。
腕に、脚に、全身の筋肉に、電気信号が発せられているのがわかる。
なにもかも、いま目の前にある柔らかいものに、すべてをぶちまけてしまえ。
悪いのは誰だ。反省していないのは誰だ。
その柔らかいものが動きを止めるまで、思い知らせてやるがいい……

私は自分の思考に小さく悲鳴をあげた。

自分が自分でなくなっている。
自分の足にインプットした通りに動け。
私はロボットだ。何も見るな、何も聴くな、何も口に出すな。
お尻を出したままの我が子をほうり出すようにして立ち上がり、廊下に繋がるドアに突進する。
廊下の空気はひんやりとしていた。
後ろ手にドアを閉めると、はめこまれた格子ガラスががちゃん、と大きな音を立てた。

廊下に出たら、へたりこむように壁に背をつける。
目の前が真っ白になっていて、頭は何も考えられない状態になっている。
そんな状態になっている自分を、どこかから見ている自分がいる、そんな感覚。
暗い廊下の先を見つめる。
呼吸するだけで精いっぱいだ。
頭が熱い。どくどくと血液が循環している。
顔は蒼白になっているだろう。

……時間でいえば束の間のできごとだ。
私はなんとかやり過ごす。
ついに「理性」が戻ってくる瞬間が訪れる。
まず、自分が呼吸している意識が戻ってくる。
そうしてはじめて、深呼吸ができるようになる。
肺を満たした空気が脳に酸素をたっぷりと供給し、この世界に自分の心と身体が戻ってくる。
動物の感覚世界から人間の論理世界へ。
そう、私はこの世界で、この街で、この家で、母親役をやっているのだった。

そして耳に入るは……居間の我が子がぐすぐすと鼻を鳴らす音。
もう大丈夫、のはずだ。
居間に出ていかなければ。
でもその前に、洗面所で、冷たい水で顔を洗おう。

ハンドタオルで顔を拭き、鏡をじっと見つめる。
鏡の中の私も、じっと私を見つめ返してくる。
そう、私は今回も成功したのだ。
――例えその成功がぎりぎりの産物だったとしても。
いつスイッチが入るのか、私にはいまだにわからない。

それでも……
ひとつ復讐が果たされ、ひとつ癒しが蓄積された。
それが私の誇り、生きる支えになっている。
それを家族は知らない。

あの子が小学校を出て、中学生になったら。
あの子の成長期がはじまり、もっともっと大人の体つきになってくれたら。
あの子の背丈が私の背丈を追い越し、あの子の体力が私の体力を追い越してくれたら。
私が力づくであの子を抑えつけられなくなる時が来てくれたら。

その時はじめて、私はあの子のお仕置きから解放される。

ここまで頑張ってきたのだ。
あともう少しだけ、耐えれば良い。
それがあと何年かかるのか、それは神のみぞ知ることだ。

「お仕置きちゃんと受けられてえらかったね。どんどん大きくなっていくね」
居間に戻った私は、そう我が子に声をかける。
スポンサーサイト
[PR]

[PR]

iwayuru

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。